「夏の旅」 東北篇 その2
2019年8月24日
東北から帰ってきて随分と時間が経った。この旅は記録に残すという、セキュリティの脆弱性を伴ったかのような意志は瞬く間に消えていた。記憶も曖昧になっているが、カニ政宗で蟹を食べたことはしっかりと覚えている。
うだるような暑さに、10分も歩けば汗は噴き出し呼吸は荒くなる。そこで、同伴者と私は、"DATE(だて)バイクなるレンタル自転車"を活用した。これが大当たりである。乗り換えられるポイントがたくさんあり、同じ場所に戻さなくてもいいのだ。夏、仙台の街を自転車で走行する。字面の表面的なイメージに嬉々として、目的の仙台メディアテークまで走らせる。
建築について詳しくないので細かに書けないが、とにかく建物が美しかった。同時に、正解をずっと出されている、隙を感じられなかったのも事実である。私は隙のないものと対峙した時に、資本や権威の匂いをどことなく感じ取ってしまう。それは生涯、解決を約束されない事件のように、つきまとう。
2階か3階、正確には忘れたが図書館のフロアもあった。文献や記事を探しに来ているのか、比較的に年配の方が多かった。丸いメガネに白い顎髭、微動だにしない眉で堂々と新聞をめくるお爺さん。
「この人は物知りだ」と思いこみ、棚にある本に見向きもせず、私は「いい顔をするものだ」とあるお爺さんの表情を見ていた。ここが仙台であること、旅の最中であること、そういったメタデータは脳内からどんどんと抜け落ちていた。
旅は日常からの脱却であるが、己を解放できるかどうかは別の問題である。