マンションの46階、海の見えるベランダから
マンションの46階、海の見えるベランダから
そこに置かれた緑の葉は水々しく、久しく眺めたその景色に愉悦を感じる。10年越しで手に入れたこの部屋は常に綺麗に保たれている。雑誌は棚にすっぽりと埋まり、手をつけられていない。上側にかぶる埃が微動だにしないせいか、年季さえもない。
周囲の者はスタイリッシュだと、都会的だと言う。なぜなら、部屋から出て行く瞬間には鍵を掛けその香りをもらさないのだから。「隠しごとは魅力を高める」「人類は批評好きだ」、この二点だけで十分に食事をこさえられる。窓を開けると波や飛行機の音がささやかに聞こえる。繊細などとは程遠い、明晰さ。音が聞こえるのはこの為。
スマートなどとはとんでもなく、貪婪で卑しい様だ。7月の蒸し暑い地上は工事中で、忙しそうにクレーンが動いている。遠くから眺めていると止まっているようでも俊敏なのである。「利益確保も売り上げもこれだと、一緒じゃん。練り直し」汗を拭うビジネスマンは電話越しに、部下に怒鳴る。
蠢く街に太陽は降り注ぐ。ビル群に反射し私はその光を浴びる。根拠や自信はほんのささいなことだ。日本画に書かれるような場所でも、泥水を啜ったような場所でも、木々は揺れ美しさを告げる。