オーブントースターと私。クロワッサンを焼いた話。
オーブントースターと私
大掛かりなダンボールが家に届いた。仕事を終え帰ってきた私には荷が重かった。
「休みの時に開ける」と決意し、しばらく放置した。玄関の扉を開けたところの右側に置いており、なかなか幅を取る。労働に従事した後はその箱が余計に大きく見える。
一瞥することはあれど、家の中に運ぼうという気力が出ない。しかし、ある日、比較的はやく帰路に着いたので、私は思い切って、その荷物を部屋まで運んだ。思ったよりも軽く、今まで渋っていたことに恥じらいを感じた。
「ここまで来たのなら」と段ボールの中心にハサミをなぞらえ、チョキチョキと手を動かした。
箱から四角く黒いオーブントースターが出てきた。なかなかの迫力だ。中を見ると、パンを焼く時などの銀色の網が存在した。高価な品物ではなくとも、黒と白銀は硬質な印象をもたらす。そんな中、私はコンビニでクロワッサンを購入していたことを思い出した。
「カリカリのクロワッサンや・・」無意識の内にそう呟いていた。ここまで来たなら、こんがりと焼けつつ、一口噛むとあっという間に無くなるあの食感を味わおうではないか。徐々に乗ってきた私は、ノートパソコンに簡易スピーカーを繋ぎ、渡辺美里のマイレボリューションを流した。心臓の鼓動とBPMが規定するための感覚を錯乱させる。
台の上に場所がなく、クローゼットの床に直接置かれたトースター。そいつの扉を開け、いよいよクロワッサンを入れた。120℃で2〜3分で焼けると知りトースターのタイマーを右に回した。一度回して戻すタイプのタイマーと思い込み、ぐるりと回した。戻せないタイプのトースターと知った時の衝撃は今も忘れない。
トースターはジーという音を立て続けた。頃合いを見計らい、クロワッサンを取り出した。トースターは動き続け暖色が部屋を包む中、私はクロワッサンを食べた。予想していた味と寸分違わなかった。美味い。渡辺美里のマイレボリューションが終了しているのは明白だ。そして、トースターのジーという音だけが静寂に鳴り響いた。