初めてのゴールデン街
初めてのゴールデン街
光るネオン、活気溢れる客引き、綻んだ顔で交差点を渡る人々、一同に会したつもりはなくとも巨大な群を織りなしている。一昨日は、新宿の群を構成するひとつとなった。東の京の人混みにもすっかり慣れっこになり、人の波をひょひょいとかき分け移動。自分の知らないところで、この街ではアクシデントが起こっているのだろうかとふと思ったり。
音楽が流れるところにはしょっちゅう顔を出しているが、飲みに行くとは久々。冗談を織り交ぜつつ軽やかに会話は進む。一期一会で知り合い、今は別の環境に身を置いている。それぞれの心境や状況を聞く。私は至極マイペースに話を聞きつつ、大根を味噌に漬けてボリボリと食べていた。その人が選択し邁進していると知ったのなら、何を言うことがあろうか。電車の最終時刻が近づき、それぞれの場所に戻った。違う環境同士の共有の瞬間は面白いと思う。
解散した後、新宿にいるので前から行ってみたかった「ゴールデン街」に繰り出した。
母国語は飛び交わず、外国人が多かった。どこに突入しようかと歩いていた。少し電力を消費したであろう蛍光灯に照らされるのは、「JAZZ」という文字。入り口を目指し細い階段を登ろうとすると、向こうから優しそうな男性がきた。男性は印象的な笑顔で「主人の機嫌は悪いけど、いい音楽が流れているよ」と言った。常連さんかどうかは知らぬ存ぜぬが、ゴールデン街に惹かれた人なのだろう。
味のある木の扉を開けると、横に長く席が7つぐらいの店だった。壁一面に置かれたCD。2000枚ぐらいはある。主人はちょうどコンポからCDを取り出していた。机の上を一瞥すると「芋」「米」「麦」などと書かれた焼酎の種類一覧が置かれていた。焼酎の特性など、頭の片隅にもない私は「芋」を頼んだ。
「このCDは全部、JAZZなんですか?」
「ノンジャンルや。そう、JAZZの中でノンジャンル」と主人は答えた。
言葉の言い回しとは反対の愛情深さを主人から感じた。
「何十年掛けて集めたんですか?」
「勝手に集まってきた。意識的に集めているようじゃあ好きとは言われへん」
その1分後にこう言っていた。
「物あるの嫌いや。家の中は何にもない」
1時間もいなかったがとても魅力を感じた。