中島らもの本を読み耽っていたあの時みたく、午後の労働に身が入った。
休憩の間
東京の西、遠くから轟く鉄を掠めた音が聞こえる。延々と続く音の正体は、数年はかかるであろう工事だった。地図を上から眺め、ある一点に注目をする。他の場所は動かずとも、その工事の地点では黙々と破壊が繰り返されている。
一定の間隔で鳴る音を発見した私は、晴れた昼下がりにベンチで寝転んでいた。連綿と続く機械音でありながらも眠りを誘う。しばらくうとうとした私は、夢を見る間もなく起きた。
平日のど真ん中、周囲を見渡せば、背広姿にワインレッドのネクタイをした男性が軽やかに歩いていた。その光景と同時に、風を受けざわつく葉が目に入った。「揺り起こすよ」と言わんばかりに風は激しくなり、休息は終わりを告げた。私は「なるほど、春に揺れる新緑の葉は堂々としているな」と呑気につぶやいた。
季節の変わり目には美しい情緒が添う。
それは数分もあれば感じられ、身体に変化が起こったと錯覚を起こすほどだ。
働く人々の中に戻る時間は迎えに来た。白昼夢は覚めるものと頭に叩き込んだ私は、所定の位置へ移動する。いつもとは違う道から半開きの目で目標に向かう。諦めは肝心で私を強くした。中島らもの本を読み耽っていたあの時みたく、午後の労働に身が入った。
『以下、忘備録』
足を動かさずとも移動できること。孤独と自立の噛み合わせ。思考の転換。日本国に生まれた。多勢に無勢、また、赤ら顔。