『地下の砂漠』 1000文字小説
「足を進める以外に選択の余地はない」
砂漠にいる旅人は、闊歩しようとするが砂に足元を掬われる。
蜃気楼さえ見えないその場所では、ラクダもうなだれ首を曲げる。
その時、どこからともなく砂嵐がやってくる。
砂嵐はぽっかりと丸い穴を作った。大量の砂の下にはこの場に似つかわしくない階段があった。鉄製でできているその階段は地下へと続いているようだ。
途方もない状況では、そこに希望を見出すしかない。
恐る恐る階段へと足を進める。
地下からは音が聴こえてくる。
反響しやすい場所なのか、何よりもベースが耳を襲う。中にいたのは、髪の毛をドレッドにし、袖のあたりがカラフルになっているジャージを着た黒人の男。頭にターバンを巻き、赤い布をまとった女性もいる。そして、もう一人。中にいたのは三人組だった。
地下の部屋の隅っこにランプが一つ、部屋の中心には火があった。ランプと火、真っ暗な地下を照らすには十分すぎる灯りがある。そう広くないこの空間で彼ら、彼女らは楽器を演奏している。
階段を降りる時にさんざん響いていたベース、道端に落ちている何かを寄せ集めて作ったようなドラム、一人はギターを弾きながら歌う。干上がった土地に、容赦なく照りつける灼熱の太陽をも彷彿させる。・・もう、ここは砂漠ではないはずだ。
いつの間にか、地下に入った瞬間に感じた暑さも吹き飛んでいた。
どうやら曲が変わったようだ。いつ終わったのかさえも分からないが淡々と演奏を続ける彼ら。こちらの存在に気づいているかどうかさえ、定かではない。
先ほどの曲よりテンポが少し遅いようだが、曲調にあまり変化は見られない。
橙色がかった火と裏打ちが妙にマッチしている。理解できない状況に立たされているがなぜか溶けそうだ。脳内を叩くようなスネアが安心感を加速させる。「ここから帰ってこれなくなったとしても問題ない」唐突な思考が頭をよぎる。
溶けそうな感覚はいつまで続くのだろうか。
心が洗われているのか、それとも、狂ってきているのか。
判断は二つに分けられた。
もう、話しかける気も起こらない。ただ、溶けることに身をまかせる。
先ほどと同様、彼ら彼女らの姿は確かに見える。
ドレッドの黒人の男、ターバンを巻いたきつい目をした女性、はっきりと確認できる。
音の反響が僕を狂わせたはずなのに、もう、音楽は聞こえてこない。
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※この曲を聞いて、湧いてきたイメージを話にしてみました。
ほれぼれするほど、かっこいい曲です。