特筆すべきのない平凡なふたり:寿司の写真を貼ろう。
物語中の会話は想起させる力が強い。登場人物が今まで生きてきた感性、“その言葉を選んだ”というところ、すべてを含んでいるかのよう。
「梨をひとつ食べるよ、私にも」「蝶々のように、とんだりして。」
「酔っているだけよ、いつも」「窓の隙間から入る光みたいね。」
「その傷はいつ頃からあったの」「本当は、自分のあざとさが好きなんだよね」
「そんなのだから、いやなの」「ありがとうね」
会話だけおこしても全然違う。どうしよう。寿司の写真を貼ろう。
あきらめず、間に会話以外をはさむ、下記、練習。
-----
あっけらかんとした京子は食い意地が汚く、欲情に流されるとき、眉をぴくりと動かす癖がある。
「梨をひとつ食べたい。私に」
共同生活を行う保育士の奈美子は、青白い顔をしている。いつも後手に回り、ほそぼそと言う。
「蝶々のように、とんだりして。」
食器棚から割のよさそうなグラスを取りだす。英語を上手く話せなさそうな老人が働くスーパーで買った大きめのロックアイスをそこにいれる。
「酔っているだけよ、いつも」
あきらめや卑しさのないトーンで京子は奈美子に言葉をかえす。続けて、記憶をひとつ頬張り、「窓の隙間から入る光みたいね。その傷はいつ頃からあったの」と矢継ぎ早に奈美子に話す。
「本当は、自分のあざとさが好きなんだよね」
その声はすっかりと震え、京子には愛嬌とすら受け取られる。
「そんなのだから、いやなの。でも、ありがとうね」
特筆すべきのない平凡なふたり。