恵子のくらし1
恵子は暮らし、考えていた。夜明け前にいつも、紙タバコを作っていた。
乾燥した手の中で葉がパサパサと踊る。
喉に通るものを選別するほどに歳をとり、着実に大人になっていた。幼い頃に、祖母に捨てられたおもちゃ箱。遠い記憶ほど、近くて鮮明であった。出不精な性格はその出来事にひもづいている。
「あかんからね、あかんからね」
祖母の口ぐせは、恵子のひねくれた性格を形成するのに十分であった。
誰も知らない、しんとした世界の感傷に浸り、そして、味噌汁を吸いあげた。夜はいくらか寄り添ってくれるが、いつか明ける。
抗いようのないものと手を繋ぎ、寝た。心地よさに身をゆだねれば、口からまた出てくる。「恵ちゃん、あかんからね、あかんからね。」