移り気に美しむ散歩。
移り気に美しむ散歩
忙しない日々から脱出し、春の陽気の元に散歩をする。
自然発生的に頭は回転しリズムが出てくる。何度も通っている道も季節により様相が違う。道路をひたすらまっすぐに銭湯を目指す。
「緩やかさ」と手をつなぎすいすいと歩く。車は日常の風景に溶けこみながら走る。
ふと下に目線をやると花が咲いている。風で少し揺れているそのようすをみて、喜びがこみ上げる。その花は脆くもあり劇しくもあった。
立ち並ぶ建物と対照的に名も知らぬ花が風に揺れる。
ゆっくりと歩いている時にしか成し得ない体験、道路脇に生えている植物に目を奪われる。情報を知らせる看板や電柱の線は気にならない。
花に目を奪われるのはなぜだろう、それは人工的ではないからだろうか。目的を知らずにそこに存在するのみ、散歩特有の思惑が頭を巡る。日々を疾走する心に花は入ってこず、目を配ったときに生まれる。なんと不思議な有り様か。
一瞬を軽視しないように、忘れぬように、花をカメラに収めた。繋ぎ止めなければいけない気がした。
いつの間にか銭湯に到着していた。
僕は受付を済ませ、お湯に浸かった。パチパチとこまかく弾ける炭酸が肌を温める。
愉悦が身体を巡る。花のことなどすっかりと忘れていた。
気まぐれに花はかき乱される、それでも美しく咲く。