(2020060-7) 目玉焼きと女性A_
20200607
目玉焼きを太陽に照らしている人をみた。両手を高々と上げて、手のひらを天にむけ、太陽と黄身を調和させようとしている。世界の力を借りようとしているのか、踵が少し浮き上がり、つま先には力が入っている。柔らかな地面がえぐられている。
その横には、白髪でエプロンを身につけた女性Aが犬の散歩をしている。ワインレッドのヒモを引っ張り飼い犬をリードする。それも思いっきり。役立たずと言われ投げ捨てられた数々のユーモアを回収していく作業のように、頼もしい。「引き取りは私が担当します」と言わんばかりの顔で、餌を巣に持ち帰るアリのように道しるべを見失わずに進む。
目玉焼きを照らす人と犬を連れている女性A。ありもしない概念を創り、共通項のみをみつけ、したり顔をしたのはだれ。目玉焼きは干からびて、犬は満足する。性懲りもなく、「これこそが生の充足感だ」とわたしは胸を張って言う。
「ハンマーを持ってくるわね」空耳だろうか。清々しい朝に鉄の匂いがこびりつく。