一節 「歪んだチリは当人の知らぬ間に堆積し、その瓶に入りきらないほどになる」
一節
哲夫は知った。自由業と謳い、街を転々とするその人生を、悔いも用いず、飄々と過ごすはずだった。以前は工場に勤務し、押し出されるトコロテンをひたすら眺めていた。茹でられる前のテングサと自身の心境を照らし合わせるほど、妙な心持ちになったこともあった。
工場内では数人の友達も出来た。人に可愛がられる愛嬌があった哲夫は、取り繕った会話を得意とした。
「哲夫ちゃん、おたおたしてらんないよ。納品、今日までだからね」
「哲夫、こっちこっち、それ先月分の記録だろ。またうとうとしやがって」
お話好きの友達は自らを省みる術を持たず、ただ転嫁することにより夜を過ごしている。過去を思う分、幾らか、哲夫の方が世渡り上手である。
哲夫の友は、オノマトペの使用権がさも当たり前に、自らに帰属すると考えている。淘汰やフィルターとは程遠い。それは、弁のない一方通行の循環器であり、常に新鮮なサイクルやループを成している。
----
歪んだチリは当人の知らぬ間に堆積し、その瓶に入りきらないほどになる。
----
哲夫は仕事を辞めた。きっかけなどは特になく、あえて言うならば、週に五日、勤務するに耐えられなくなったからだ。幼い頃からその場しのぎな性質は確かにあった。
その小さな火種はやがて、自らで消せないほどに燃え上がる。
幸福の形。降伏を模倣し、また、知恵を挿入することか。身勝手な省みは縦横無尽に心を喰らいつくばかり。近づけば近づくほど遠ざかる。
まるで真実みたいに、そんなよくある話だ。