「ドクターオニオン 」「六月の雨」 短文随筆の二本立てだよ!
ドクターオニオン
刺激的なオニオンがスープに染み、広がる。
ストライプ模様のあの球体にぎっしりと旨味が詰まっているのだろう。根源的な力さえ感じられる。
「堀りにいきたい、玉ねぎを!」
土の中にどんと眠り、堀り起こすと半分より上を覗かせると思う。自然と土を従えているような存在感もたまらない。スープを一口飲んでしまえば、想像力が掻き立てられるあの代物。
「出汁の旨みこそ、燻し銀よ。あなた、彼に一矢報いたいなら、汁よ。出汁よ!」
生命力のある主婦が声高に発言する姿をぼんやりと想像する。
旨味がある分か、僕のスープの消費はイアン・ソープばりに早い。
口の中は荒い濁流に巻き込まれながらも、オニオン一点に集中している。憎き味の王様、その発祥の地さえも思い込みで埋めてしまいそうだ。悪霊に吸血鬼もよもや相手にならないのだ。
すっかり悦に入り、堪能していると舌を軽く火傷してしまった。
僕は恥じながら病院を探しに出かけた。
六月の雨
六月の雨は連日続く。小さい頃に後部座席で聞いたワイパーの音を自然と思い起こす。溜まった雨水を一斉にはねのけるワイパーに感動を覚えたものだ。
覚える必要もないけれど、眠っていた。それらが浮かび上がることこそ、無常と言えようか。
近所を歩いている時に、ふと目にした赤味の強い紫陽花。
それは雨季の象徴であり、寂寞の対象だ。「寂しさの中で寂しさが美しいと知る」、鬼の小名浜の一節のような存在だ。それと反対に美化されず間もなく、名もなく、消えていく人たちもいる。
果たしてそこに憧憬や連綿とした美しさはあるのだろうか。
暗い夜ばかりに心惹かれ、爽快な朝に見向きもせず。作品の対象たるや如何に。いくつもの事象が同時に進行し、表象に現れる頃には混沌としている。
それもこれも、太陽が顔を覗かせない六月のせいだ。
傘を差してはいるものの、横殴りの雨に僕は打たれた。