独りぼっちのささじぃ。

ある日、おじいちゃんに「客観性に収斂せよ」と説かれ、言葉の存在意義を考え始める。日々、文字を連ね言葉の持つ諧謔性・残忍性・恣意性に導かれる。結果、物書きとなる。

『潤色の市』 1000文字小説

潤色の市

 

唐突に途切れた会話。少し鼻の高い君が通り過ぎた。君はストローを加え、甘美な唇を震わす。彼女を尻目に共同体に渦巻く妬みは僕を捉えていた。「次は君の番だが、どうかね」目の前の彼は威丈高に声を荒げる。これは恫喝するための声の大きさだと理解できる。理解と行動には境界が存在するのか、僕はコクリと首を傾け意志を表示する。男に連れられひっそりとした階段を下る。信じられないことにこれは不可逆な階段だ。降りれば最後。燻んだ木の扉を開き、薄暗い部屋へと入室する。 

 

そこにいたのは先ほどの男だ。「次はだれだ!」と叫んでいる。彼の焦点はずれ言葉は目的を失い空間は呼応しない。ただ、机の上に置かれたガラスの灰皿が妙に目につく。
正気とは思えない男は僕に近づいては止まる。「君か、君か、君の番だ」早口でまくし立て僕を圧倒しようとする。その時、木の扉が開き君が入ってきた。艶めかしい雰囲気をたっぷりと醸し、歩く。興奮気味だった男は歩く行為に圧倒され、たじろいでいた。平常心を取り戻せないためか男は部屋から消えた。

 

残響がある。

 

僕は錯乱し恐怖へと陥れられた。理性は機能せず構成が入り乱れる。過去に来た作家はペンを置き部屋から出たという。感情は制作力を高め、また鈍らせる証明なのだろうか。制作意欲の明確な魅力は鋭角に破局を促す。その頭に浮かんだのは音のことだろう。音を鳴らすためだけに奏でられた旋律はあまりにも刺々しく、存在を余してはいないだろうか。

 

せめて浄化できずに浮遊するものと踊る。幻想や囮だとしても。階段を下るほど思考は螺旋を描く。呼吸が浅いのは、ものの本質に憐れみを感じたせいだろうか。ふと我に帰れば君はそこに投げ捨てられていた。もうこの部屋には誰もいない。犬や猫さえも消えた。あるはずの違和感と撒き散らした分別のつかない言葉。両者は涙目に日々を解読し勘ぐり合った。終わりの時が近づく。

 

夏、波打ち際にヤドカリがいる。その側でニキビ顔の君は笑っている。口を尖らせても飄々とした少女のような表情は崩れない。未来へと導く笑い顔に今を仰せつかる。世界にお腹を満たした僕の本日の職務が終わった。この先は鮮やかで色は滲み、菖蒲の花は可憐に咲き乱れる。僕はこの世から去った。

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