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独りぼっちのささじぃ。

ある日、おじいちゃんに「客観性に収斂せよ」と説かれ、言葉の存在意義を考え始める。日々、文字を連ね言葉の持つ諧謔性・残忍性・恣意性に導かれる。結果、物書きとなる。

『別種の三郎 』 1000文字小説

もう一人の自分。

同じなのにそれは異種である。

 

演じることも切り離すこともできずただ輪郭を持つ。

内在や顕著とは分別された存在なのに。

ドッペルゲンガーのような乖離した自我を認めよう。

 

「こう忙しいと話すヒマもないな」三郎はそうぽつりと呟く。

三郎の自宅にはもう一人の、別種の三郎が住む。

 

別種の三郎は言葉数がえらく少ない。

それは言葉を武器と知っているからなのかもしれない。

 

「俺は、ちょっと仕事に行ってくる。三郎、お留守番を頼んだぞ」別種の三郎はコクリとうなずく。

 

これで部屋には別種の三郎が存在するのみだ。別種の三郎は部屋に飾られた猿の置物をなでている。別種の三郎は進化と退化を繰り返す。一方、三郎は世間に詫びるように日常を繰り返す。

 

 

三郎と別種の三郎、2人の行く先は火を見るよりも明らかだ。

「ただいま、今日も疲れたね。近所のパン屋あるだろ。あそこでベーグルを買ってきたよ。食べなよ」三郎は机の上に袋を置き、眠る準備をする。

 

花模様の布団が部屋いっぱいに敷かれる。

別種の三郎はそれでも口を開くことはない。ただすくすくと成長しているだけだ。

袋からベーグルを取り出した別種の三郎は何かに心を奪われているかのように固まっている。

 

三郎は布団に入り明日の準備を進める。

次の日の朝、三郎は遅刻をした。

 

「もう、こんな時間じゃないか。何で起こしてくれなかったんだ」と別種の三郎に強くあたる。一瞬、別種の三郎の目が光ったような気がした。

 

別種の三郎は久しぶりに口を開いた。

「あなたと私は違います。そろそろハッキリしたいのですが・・」そう言われても三郎は何も気づいていなく、会社へ行く準備を進める。

それ以降、2人の間の会話はなくなった。

 

三郎がいなくなった部屋で別種の三郎は何を目論んでいるのだろう。

たとえ別種であろうと、この世に2つとない存在のはずが、存在してしまっている。しかし、説明のつかぬ矛盾は三郎を困らせることはなかった。

三郎は知るよしもないが、別種の三郎は三郎の中の情緒を食べる。

 

矛盾に取って代わった代償はあまりにも大きい。

別種の三郎は初めて三郎の名を呼んだ。

 

「2つはいらない、2つはいらない、2つはいらない」自動メッセージのように、別種の三郎は同じ言葉を続ける。

「なんなんだよ。急に。俺はもう寝るぞ」

「あれっ、押入れの布団が消えている。三郎、何かしやがったな」顔を真っ赤にした三郎の血は巡る。

 

「おい、布団を返しやがれ。眠れないじゃないか」三郎の睡眠は消えた。

  

生理現象も別種の三郎に飲み込まれたようだ。 

「2つはいらないと繰り返すのはやめた」別種の三郎はその言葉を残し瞼を閉じた。

 

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